根津山の日記

日々の生活をまとめます。世田谷代田、理科教育、戦前の教育

教師の一言でうまくいく理科実験 ー「力学台車の実験」ー (1) <<理科教材論より>> 

運動とエネルギー

 

力学台車と記録タイマーを使った実験

講義で力学台車を使う運動を取り上げた。この実験、中学校では多くの学校では扱うことになっているから、どうしようかと考えた。せっかくだから、近年の高校物理で取り扱う新しい教材を紹介しようかと見込んでいた。そこで、大学生にはセンサが取り付けられた「センサカート」を使う力学実験を取り上げようと4月には計画してみた。せっかく高価な教材を購入してもらったことも背中を押していた。

「力学台車?」

講義の2回目に物理教育の教材開発について触れた。

「戦後に物理ではPSSCが日本にも影響を与えた・・・」というように、今の教材が日本に導入されたかを振り返ってみようかと思って準備した。(例:後藤道夫先生の擦り切れた書籍を紹介し、その頃の先生の熱意を知る)そこでPSSCでよく知られる力学の「力学台車」を紹介した。

(※PSSCはアメリカMITを中心に開発された物理の教材で、戦後の日本の中高の理科教育に大きな影響を与えた。)

よくありがちなのだが、学生にあまり反応がない。なぜかなと思い尋ねてみた。

「力学台車って知ってる?」

「・・・・・」

内心、理学部の学生が「力学台車を覚えていないのか・・・。」

たぶんだけれど、話を聞くと実験はやったみたいだ。ただ、覚えていないという。私から「こんな物だよ」と手振りも交えて示したら、ようやくそこで学生たちは思い出していた。

この様子を見て教育現場に出ることを考えたら、順序を変えないといけないと思った。まずよくやる実験を取り上げ、次がセンサ付きの力学台車ではないかと思った。

講義の指導計画は立てたが、いろいろ早めに見直したほうが良いと、4月の時に感じ始めた。大学生とは言え、あまり多くを望むのではないだろう。基礎的なものでも、そこにコツがあって、大変ではないことを体験できるように考え直した。

 

<<中学校の力学はどのように扱うか>>

中学校では力学台車を用いて「等速直線運動」や「等加速度運動」を扱う。ニュートン運動方程式で力学は習っていないので、通常は力と速さの変化の関係は扱うことしない。そのため、斜面方向にはたらく力と速さの変化を関係づけるようには指導しない。

 

教科書に示された実験方法には、力学台車を斜面に置いて、斜面に働く力をバネばかりで直接測ることを求めることが示されている。この場合、「斜面のどこに力学台車に働く力は常に同じである」と確認することがねらいにななっている。私の印象だと、ここの操作で、「なぜ力の大きさを測っているのか」について学生は認識していない。中学生も大学生も同じなのだ。

もしねらったとするなら、指導計画しだいで、中3で力の合成・分解を扱うので、斜面の物体にはたらく力を教えることはできる。生徒が速さの変化を関係づけて考察することは可能ではあろう。確かに、生徒からは、「力と速さの変化と斜面の角度に関係ある」という類の考察は見受けられるが、そうだからと、力と速さの変化を関係づけられる生徒はいないだろう。

斜面にある物体に、斜面の方向にはたらく力

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力学台車を借りる

いろいろ考えて、最終的には基本の力学台車の実験を行うことにした。そこで、大学の実験室を調べてみたが、「力学台車」が見当たらない。思案して、教材会社のナリカに連絡して、ちょっと借りることにした。ありがたいことに、無理言ったが1セット借りることができた。忙しい中対応してもらい、感謝しかない。さらに、大学の教職担当の先生が対応して、力学台車と記録タイマーを1セット購入してくれることになった。大学にも感謝である。計画を変更し、前期は力学台車と記録タイマーを使って基礎を扱い、後期には、センサカートを用いた力学実験を取り上げたいと思う。

教職課程の当講義は「理科教材論」を謳っているので、理科教材の持つ機能は触れておくべきなのだ思う。授業時間が許せばこれで学べる力学実験が実に多く、条件を変えていくつも探究できる。力学台車の機能はとても優れていて紹介しても一部しかできない。本当によくできた教具なんだ。

 

教科書・参考書にはない実験の要点

この斜面と記録タイマー、力学台車による実験は中学校の定番で、ほとんどの教師が取り組んでいる。実験データの操作が多く、データの処理も厄介で、1時間(50分)で考察まで終え提出するには時間が足りない時もある。生徒のミスを少なくして、ベテランの先生でも気づかない指導の工夫がある。

そうなのだ、「ちょっと一言だけ」と生徒に言うだけで、実験の操作やデータの処理が間違いなくうまくいくことがある。紙面の都合もあるし、やり方もそれぞれあって、教科書には細かい操作が示されていない。自作プリントだけで実験する先生もいる。

 

講義では、教科書を集めて比較した調査内容と、これまでの指導の経験を加えてテキストを作った。学生にはテキストを配ったが、全ては解説できないが講義の中で、特に教師も子どもも陥りやすい操作や処理のミスや難点に絞り、考えるための時間をとった。

(つづく)