根津山の日記

日々の生活をまとめます。世田谷代田、理科教育、戦前の教育

実験の結果が不一致、失敗も成功もなし 2

 

さて、先日目に止めた新聞の記事に、小学校の理科指導の課題として、「実験に成功も失敗もなし」「実験結果が不一致でも思考を深める」の2つがありました。それについて考えてみようと思います。(後編)

 

◉ 楽しいけれど、手間がかかる

 

小学校では理科の指導の知識・技能の不足を感じています。それが、若い先生ほどその割合が高いそうです。実験器具の扱い方、理科の知識の不足も課題なのだそうです。最も顕著なのが、「観察・実験の結果が教科書通りにならない場合の対応」なのだそうです。そのときの手立てがわからず、理科指導への苦手意識を持ってしまうのです。(塚田昭一 十文字学園女子大学、「実験に成功も失敗もなし」日本教育新聞2023年1月2日発行) もう一つの記事がありました。授業の「まとめ」では「実験結果がグループで一致しなかったり、教科書通りにならなかったりすることを敬遠しがち」(鷲見辰美 筑波大学附属小学校、「実験結果不一致でも思考深める」日本教育新聞23年1月2日発行)

 

このコメントについて後半部分を書きます。

 

◉実験の技能の観点

知識理解と実験の技能は観点で合わさって1つの観点になりました。かつては、実験の技能はかつて理科の観点の1つにありました。どう実験のようすを見とるか、試行錯誤したことを覚えています。観点の重要な評価資料として、実験の結果や操作のようすから、一人ひとりの技能を数値化して実験の技能をみとることができるのでしょうか。難しい判断になります。

◉実験の技能で何をみるか

教師は実験中に操作のミスがなく、結果がうまくいくように注意ははらいます。そして実験のとき、生徒のほとんどは熱心に実験に取り組んでいます。それでも、理科の実験で結果が思うように出ないこともあります。

そのようなとき、わずかでも教科書の結果例と異なるだけで、「失敗した」とか「合っていない」と捉える児童・生徒が多くいるのが現実です。できない理由を人の問題としてとらえがちですが、冷静に実験の条件や操作・方法に注意を向けるようになればいいと思っています。実験では、必ずしも教科書の実験例と一致することが良いことではないです。先入観をもって観察して、実験で起きる細かい現象を見ていないことがあります。実験には必ず誤差や例外を含むと思うことから、自分の実験方法や試料・装置を観察して考えること、これこそ「考察」に値することだと思います。人の問題・失敗として片付けてしまうのは勿体無いことだと思うのです。このような見方・考え方ができ、誤りもその子なりに考察ができれば、仮に実験結果の値が思わしくなくても、評価を良くするようにしたいです。

  • 現場での対応

小中学生を相手にしていると、冒頭の例はよく見かけます。そのような子どもたちにどう対応するか現場での実践で工夫が必要だと思います。簡単ではないですが、粘り強く、値がうまくなくて、失敗と思う子どもにも、まずはその原因を考え、問い直すことややり直すことを勧めています。

 

◉実験の技能で何をみるか

現実には子どもの発達段階や能力も差がありますので、考察で見直すことは簡単ではないです。やり直しができる場合ばかりではないです。そのため、現実に「実験の技能」で何を評価していたか、いくつか私が試みていた事例を紹介します。あくまで「私の現場での対応」です。

(1)わたしが最もよくみたのが提出物で、適切なグラフや表・スケッチをどう書いているかをみます。グラフや表、スケッチの書き方は正しく描けているか評価して、生徒に返していました。それを実験の技能として捉えていました。

(2)安全に注意を払っているかをみました。防護めがねなどを装着しているかや「ガラス器具」や「電源装置」の操作などでみていました。これらは、強い薬品や電圧、電流を扱うことも関係します。操作するための前提にあるので、確認して評価に入れていました。

(3)ガスバーナーや試験管の加熱などの実験の操作の指導はしっかりやります。安全面も大事な要素と捉えています。パフォーマンステストをやった時もありました。だだし、必ずやるものではなかったです。多くは、加熱の操作がある授業中に看取るようにしていました。

(4)「実験が終わるまでの時間」は評価のひとつになりました。生徒によくできたとほめていました。トータルとして時間が短く、的確にデータが取れている班は技能面でも優れている点がありました。

(5)方向が異なるかもしれませんが、実験の活動でどのような役割をしているかをみました。チームで誰がリードしているかは気をつけていました。目標として、みんな明るく楽しく進めるのが良いと思います。分担して実験を行っていることがわかればよいです。

(6)班全体を気遣っている生徒も評価しました。他の生徒に声をかけることは、技能に自信があるとみることができます。チームワークをどうすすめるか、実験を遂行する上では、大事なことだと思います。話がもっとずれますが、個々の児童生徒の評価を下げるのではないですが、だれか省かれた生徒がいたまま実験が進行していないか、かなり気になります。

 

◉まとめ

いろいろ書きましたが、実験の技能は細かい操作のミスを評価することではないように考えていました。パフォーマンステストをやったこともありますので、知ってはいますが、あまりすすんでやりたいと思いませんでした。また、顕微鏡の観察でも、特徴が見つからない班もあります。試料によっては、見えないのも仕方ないことがよくあります。先生がやっても見えないこともあります。

私は、実験の技能のゴールは何だろうと思います。稚拙でも、自分で実験を計画して準備し、やり遂げられることかと思います。繰り返して追求してもらいたいです。児童・生徒が実験(探究)のねらいや仕組みを含めて、実験の操作を考えて考察が書けるように徐々にでも取り組みたいものだと思っています。

 

 

 

 

 

 

この記事を書いていたら、「物理教育」が届き、関連したことが書かれていました。東大物理専攻学部3年の学生実験、防衛医科大学校1年生 学生実験を担当される著者の実践が紹介され、実験で失敗したときの学生の様子が書かれています。

 

5.2 学生実験レポートにみる現実系と物理学の関係性

学生実験のレポートを見ていると,大学に入って初めてレポートを書く学生が大半のようである。今のところ,学生実験のレポートについては,一度提出させて赤入れして学生に返却し、書き直させたうえで再提出させるようにしている。全体的に,何を書けばよいのかが分かっていないことと,書くことを面倒くさがり、文字数を省したがる傾向がある。今のところ,物理学の中身よりも,レポートの書き方の指導の比重が高くなっている。

特に結論部分が特徴的である。実験結果と文献値を比較し,文献値と一致すれば,実験が成功した、一致しなければ実験が失敗したと記述される例がとても多い。もちろん、物理実験においては、結果は誤差も含めて事実であり,これが主である。実験の種類や方法にもよるが、実験結果といわゆる文献値の差異は,実験誤差や現実系と実験モデル、観測方法の差異に依存する。これらに気づき,見つけ出すことが考察であり,起点となった簡単なモデルから,より精緻なモデルを導き出すのが実験である。しかし,学生達は教科書などの中にあるモデルや式のみを信じており,これらと異なる結果が実験で得られると,実験を失敗した,悪い実験であると結論づけてしまう。これも、先の東京大学理学部物理学専攻3年次の例と同様に、現実系を物理学を使って理解する力の不足にみえる。

 

引用 「現実系を物理学で理解する能力」 八幡和志  物理教育 71巻第一号 2023  p30

 

小学生も大学生も関係なく、状況が同じだと繰り返すのですね