根津山の日記

日々の生活をまとめます。世田谷代田、理科教育、戦前の教育

偶発性低体温症

災害関連死を防ぐため

能登地震によって被災者への対応として、災害関連死について注意が払われています。被災地で生き残った後に十分に手当てができず、体調のすぐれない方、高齢者や障碍者などで起きているようです。東北大震災、阪神淡路大震災など大きな災害が冬に起きて、避難所での災害関連死がたびたび起きていることがわかりました。災害関連死の原因で取り上げられているのが、低体温症やヒートショックです。資料によると、災害で起きる低体温症は災害などの時、非常に寒い環境で身動き取れない状態を指しているようです。避難所の環境が十分ではないため、夜間や雪の寒さで体温が下がってしまった患者のこととを言います。これらを「偶発性低体温症」と呼んで、環境による低体温の症状を示しています。

住環境の重要性と偶然性低体温症

もしも地震が起きたときに、自分の身の回りでおきると考えたからです。避難所生活がとても寒い地域で長く過ごさなければならなくなると、偶発性低体温症に気をつけることを知りました。災害関連死が住環境とつながっているのです。これは国連機関のWHOから勧告が出されいます。それを調べてみました。

WHOは住環境について資料を出している

WHOでは1991年に、衛生健康の望ましい室内環境について勧告する資料を出しました。

この当時の勧告の目的は途上国を中心に住宅環境が整わない地域で改善を促すためです。現在の日本でも、冬場の暖房施設は十分とは言えせん。また、冬に被災したときは途上国と同様の環境で住まなければなりません。この勧告が参考になると思います

この中では、健康的で快適な生活環境のため室温は18℃〜24℃としています。高齢者や乳幼児では20℃以上が良いとしています。あまり低い気温の部屋で過ごすのは、低体温症やヒートショックの恐れがあると言うのです。

(WHO Indoor Environment: Health Aspects of AIR Quality, Thermal Environment, Light and Noise. 1991)

 

偶発性低体温症とは何か

この症状について救急医療の専門家である阿南英明氏の論文を引用すると

30℃以下になると、震えなくなり体温による重症度分類は様々あり統一されていない.生理的反応等から筆者が適当と思われる分類の一例を提示する.

・軽症(34℃以上):震え<shivering>

・中等症(30℃~34℃):意識障害,頻脈,過呼吸

・重症(30℃未満):言語反応消失(GCSのV1),徐脈,呼吸回数減少,心室細動(VF)

軽症から中等症では自己の体温調節機能が残存しており,震え<shivering>が生じて基礎代謝を高めて熱産生をする.よってこの段階では自力で復温する能力があると言える.

一方,重症では自己の体温調節機能が破綻し,震え<shivering>が出現しない.

30℃以下では心筋の被刺激性が亢進し粗暴な体位変換刺激によってVFが発生する.また,基礎代謝が高度に低下し,バイタルサインが微弱になっているが,生命がかろうじて保たれている場合がある.よって重症の低体温では徐脈,呼吸回数の低下が著明なので,一見心肺停止と間違えられる.呼吸・脈拍確認は通常より長く30~45秒かけて慎重に行う.

(日本内科学会雑誌第102巻第1号・平成25年1月10日)より

とある。

深部体温が30℃より下がると、震え(Shivering)がなくなって、自己回復ができなくなっていくらしい。なんとも恐ろしい状態が想像できます。

治療法にも驚き

阿南医師の論文には、”治療法”も示されています。まずは、体温が失われるのを防ぐため、濡れている衣服を脱がす、濡れた体を乾いた布で拭きとることが第一歩とあります。

体温を確認して、心臓の動きを確認する。それも、深部体温を測る。直腸や膀胱に体温計を入れて測るらしい。(別の記事では、腋や口腔内で測るときは、1~2℃低く見ればいいようです。)

軽症(34℃以上)では、自己体温調節機能が残ってい流ことが多いので、暖めた毛布、暖かい環境で外側から温めます。受動的体外復温といます。おそらく、暖かい飲み物なども有効でしょう。

中等症レベルまで体温が低下している場合、これに加えて電気毛布、温風器、40℃〜45℃の加温加湿酸素の投与、40℃〜42℃に温めた輸液など積極的な外からの加温がいるとしています。能動的体外復温とよばれています。輸液とは、一般的には静脈を通じての点滴のことです。

重症では、これらの治療に加えて、温めた生理食塩水を2本のチューブを使って腹膜灌流、胸腔灌流、体外灌流など、そして温度管理できる人工心肺装置など積極的な復温が必要とあります。これらを能動的体内復温といいます。ここまでやるとなると、病院で命ギリギリの治療となりますね。

なるほどそうかと知ったことがあります。低体温症が原因による心肺停止のときは、治療して回復した予後において、神経学的に良好な回復が見込まれるのだそうです。つまり、通常より長い時間意識がなく、心肺停止になっても、蘇生に成功し生存することがあるそうです。これは、麻痺が少ない回復の可能性があるということでしょうか。そのため、心肺蘇生(CPR)についていつもより長く試みることを求めています。除細動(VF)については慎重にするということも書かれています。

救急医療の論文はせまるものがあり、低体温症を治療することがどれだけ大変かわかりました。